「……花音」



びくん。

自分を呼ぶ声に、反射的に肩がはねた。

おそるおそる、声がした方向を振り返る、と。



「せ、つくん……」



教室の後ろ側にある出入口のそばに、どことなく顔をこわばらせた刹くんが立っていた。

今は、2限目を終えたばかりの休み時間。

そのドアのすぐそばの席で、わたしは教科書をしまい途中の椅子に座った体勢のまま、彼に目を向ける。



「花音。話、あるから……昼休み、中庭に来て。メシ食ってからでいいから」

「え」

「じゃあ。……待ってるから」



刹くんはそれだけ言い残して、早々と廊下の向こう側へと消えた。

わたしは呆然と、ドアのあたりを見つめる。

すると今度は、若干騒がしい足音が近づいてきた。



「ちょっと花音、今進藤のクソヤローがそこに来てなかった?」

「し、しおちゃん……そんなあけすけな……」



しおちゃんは不機嫌そうな表情を隠しもせずに、さっきまで刹くんがいた出入口を睨みつけている。

そんな彼女に苦笑して、わたしは机に視線を落とした。