「ん~……っ」



下駄箱まで来てスニーカーに履き替えた俺は、外の空気を吸って思いっきり伸びをする。

なんだか冴えない気分を吹き飛ばすために、なんとなく外へと出てみたけれど……思った以上に、初秋の空気は心地良い。

からっと晴れた天気だし、いっそ、ランニングでもしたら気が紛れるかもしれない。

……とまあ、どうせそれは放課後の部活で嫌というほどやることになるから置いといて。



「(……今度また、花音ちゃんを海に誘ってみよう)」



外の風にあたっていたら、なんだかもやもやした頭がクリアになってきた。

そうだ、もう過ぎたことは仕方ない。自分の諦めの悪い想いはいい加減女々しいとわかっているけど、そのことで、これ以上あの子に迷惑はかけられないのだ。

……これ以上、あの笑顔が綺麗ないいコを、傷つけたくない。

それにはまず、早いうちに昨日の埋め合わせをしなければ。


そんなことを考えながら、俺はブラブラと石畳の道を歩く。

だけどちょうど、中庭に入るコンクリートのアーチを通ろうとしたとき。

なんだか聞き覚えのあるふたり分の声が耳に届いた気がして、俺はその場に足を止めた。