「……これ」

「花音、気に入ってたみたいだったから」



彼がくれたそれは、雑貨屋さんでわたしが見入っていた、あの蝶々の髪留めだった。

わたしは戸惑って、自分の手の中の髪留めと目の前の刹くんを、交互に見る。

すると彼は、いつもの強気な表情で、小さく笑った。



「なんか、ほとんど俺が強引に誘っちゃったし。お詫びも兼ねたプレゼントだよ」

「お詫び、ってそんな……」

「ほら、貸して」



言いながら刹くんはまた、こちらの返事を待たずに髪留めを取り上げる。

そして今度はしっかりと、わたしの左耳の上の髪にそれを差し込んだ。

呆然とするわたしの視線の先で、刹くんはやはり、悠然と笑う。



「ん、やっぱり似合うな」



さっきの、雑貨屋さんのときみたいな。

とてもやさしげなその表情に、確かに、わたしの胸は高鳴った。

頬が熱いから、また、顔が赤くなってしまっているかもしれない。


わたしはそっと、指先で髪留めに触れた。

彼を見上げて、笑う。



「……ありがとう、刹くん」

「──ッ、」



見上げた先の刹くんが、一瞬目を見開いて。

後ろ頭と右肩に、彼の手が伸ばされる。

え、と思ったのは、また1秒にも満たない間のこと。

気づいたときには、すぐ目の前に、まぶたをおろした刹くんの顔があって。

くちびるに、今まで感じたことのない、あたたかい感覚。