始業式では、男女別出席番号順で並んだため、右横に未宇がいた。
(近い…)
未宇も恥ずかしいのか、ほっぺたが赤い(気がする)。しかも、自然にしていても指先があたりそうなくらい、近い。
(近いから、嫌なのかな)
再び右横の未宇チラッと見ると、何かに怯えているようにビクビクしていた。小刻みに震える気がする。顔色が、どう見ても悪かった。僕は
「玉野さん、どうしたの?」
思わず聞いてしまった。未宇は、
「…翔くん…私、人混みが苦手で…」
とほんとに小さな声で返事してくれた。か弱いな、守ってあげたいな。素直にそう思った。でも、絶対声には出せない。自分が考えていることが気持ち悪すぎる。
「大丈夫だよ、話を少し聞くだけだよ」
僕は励ましたけれど、未宇はビクビクしているし、顔は真っ青だ。
(どうすれば…)
未宇は、僕の制服の袖をちょっとだけ掴んだ。よっぽど、怖いんだろう。未宇の震えが伝わってくる。
「あの…掴んでても…」
未宇は絞り出したような声で話しかけてくる。僕は答えた。
「いいよ、大丈夫。玉野さん、大丈夫だよ」
始業式が終わるまで、未宇はずっと袖を掴んでいた。

クラスに戻ったら、未宇の顔色はましになっていた。先生が話していると、右隣からメモが回ってきた。未宇の方を見ると、人差し指を口の前に置いて、しー。っと口パクしてきた。メモを開いて、見てみると
『ほんとにありがとうございました。助かりました。』
と書いてあった。筆圧が薄くて、小さく丁寧な字だった。僕は、メモの裏に、
『いえいえ、大丈夫でしたか?』
と書いて、右隣に回した。しばらくして、再びメモが回ってきた。新しいメモに変わっている。急いで中を見ると、
『はい。今はもう、大丈夫です。』
と書いてあった。僕は、
『それはよかったです。しばらくの間、よろしくお願いします。』
と書いて回した。もう、先生の話など全く聞いていない。初日からこれでも、別にもういい。不真面目でもいい。未宇ははじめての女子の友達だ。