社長が新入社員の家に挨拶に来るなんて聞いたことがないけれど、今となっては、彼がそれだけ律儀な性格なのだと客観的に示すエピソードになっている。 「今日は泊まっていくの?」 「明日は仕事だから、萌と会ったら夜に帰るよ」 「そう。萌ちゃんは元気にしているの?」 「うん。相変わらずみたい」 母が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、私は掃き出し窓の向こうに目をやる。 そこに広がる景色は、幼い頃の記憶とまったくちがっていた。