「駅に行くとやばいかな」


ようやくわたしの腕を離した あづ は、息を整えながらひとりごとのように言った。


わたしはやっと事態を飲みこんだばかりだった。


「大石くん、は?」

「どうかな、さすがに気付いたかな。でも酔っ払ってわけわかんなくなってるかも」


大石くんの前のグラスを思い出した。


「あれ、ウイスキー?」

「ううん、ブランデー。くっと一気に飲むんだよって教えたら、ご丁寧に腰に手を当てて飲んで見せてくれたよ」

「……急性アルコール中毒とか平気かな」

「半分くらいは口に入れた瞬間噴いてたから大丈夫じゃない?」

「汚いな」

「マスターにも言ってあるし。平気でしょ。もうみんな大人だし」


ふと自分の右手を見ると、まだ貰ったお菓子を握っていた。


「こんなもん貰っちゃったよ」

「あの店、昔バイトしてたの。話のわかるいい人たちでさ」

「ほんとにものわかり良過ぎる人たちだ」


よく見ると、お菓子の袋には『大脱走成功祈願・がんばれ!あづっち!』と書いてあった。


持たせっぱなしになっていた自分の鞄を受け取ると、スマホのライトが点いていた。もう23時をまわる。