私は外に出ると、あったものが無くなった喪失感で覆われた。

私はここに居る。

くるみさんはどこへ行ってしまったのだろう。

きっと、くるみさんは生きている。
そんな不確定な確信が心にはあった。

とにかく私は生きているのだと思う。
どんな世界にいたとしても、ここに。

そんな事をぼんやりと考えていると、私はいつも微笑んでいる、あのタクシー運転手に出会った。

「こんにちは、くるみさんは見つかりましたか?」

そんなことを聞いてきた。

「いや、見当もつかないもので、探しようもありません。」

「そうですか。難しいですね。」

他人事のように彼は言う。
この人は一体何を考えているのだろう。
そんな思いに駆られた。

今までは自分の事で精一杯だったし、生きてるのか死んでるのか、ここがどこかも分からずに居たから気にしてなかったのだろう。

今はそうじゃない。
聞いてみた。

「藤原さんは何を考えてここに居るんですか?」

少し単刀直入過ぎたかと思ったが、この際仕方あるまい。

「さぁ、知りませんねぇ。」

この人は本当に掴み所のない人だ。
でも私は分かってる。

この人は元にいた世界に行く事が出来る。
じゃなきゃ、私たちをここに連れてこれないもの。

「元いた世界、どうやって行くんですか?」

答えを知ってどうするのか分からない
けれど、知りたい疑問。

「くるみさんを探しにでも行くんですか?」

藤原さんはそう言って笑って見せた。
しかし、笑って見せたそのすぐあと、藤原さんは表情を変えた。

「何はともあれ、あなたはここに居たいと思うのならば、このままいればいいんじゃないですかね。どうですか?」

真っ直ぐにこちらを見て、言う藤原さんが少し怖くなった。

私は帰りたい。元の世界に。
大切に想う友を失い私はそう思った。

「私は帰りたいです。元の世界が恋しくなったとかじゃなくて、少なくとも私の見える世界からくるみさんが居なくなって、私はこの世界にいる事が出来る気がしません。」

そう、私は言った。はっきりとそう伝えた。
怖かった。

元の世界にもこの世界にも私は私を好きで居てくれる人が居ないこと。

でもきっと本当に怖いのは、私が誰かを好きで居続ける事が出来ないこと。
くるみさんは確かに居た。この世界に、私の目の前に。
元の世界に帰れたとしても、何も変わらないかもしれない、でもそれが私だ。この世界の私は私でいて、私でないと思う。

そんな事を思った。

藤原さんは尚も、表情の無い顔でこちらを見ている。

「そうですか、分かりました」

そう言うと、藤原さんは確かに1歩づつこちらに近づいてきた。

私はそれをただ見ていた。
そして藤原さんは私のすぐ目の前に立った。
そこで私は目を閉じた。