秋の月は日々戯れに



「あっ……」


何かを思い出したような唐突なその呟きに、彼女はテレビから視線を外して彼の方を振り返る。

なんやかんやとひと悶着あったのがようやく落ち着いて、彼女はドラマの再放送を、彼は温かいインスタントコーヒーを、それぞれ静かに楽しんでいたおやつ時。


「どうかしましたか?コーヒーのおかわりでしたら、今日はもう三杯目になるのでやめたほうがいいと思いますよ。一気に大量のカフェインを摂取するのは体によくないと、どこぞの偉い先生がテレビで」

「今日は土曜だ……」


相変わらずとんちんかんな彼女のセリフを遮るようにして呟くと、彼は突然立ち上がって出かける支度を始める。


「どこに行くんですか」


Tシャツにジャージという部屋着はそのままに、上着を羽織って財布とスマートフォンをポケットに入れると、エアコンの設定温度を少し下げ、テレビを消して玄関に向かう。


「どこに行くんですか」


もちろん、彼女の声は聞こえた上で無視しているのだが、彼女もめげずにあとを追う。


「どこに行くんですか」


中腰で靴を履いている背中に三度目の声がかかるも、彼は決して振り返らない。