秋の月は日々戯れに


元々そんなに酒に強い方ではないのだが、今日はなぜだか中々酔いが回ってこない。

酔った勢いで忘れてしまいたいことがたくさんあるのに、そんな時に限ってアルコールの効きが悪い。

それでも、自分の限界はきっちり理解しているから、一杯目を飲み終わった段階でご飯を追加注文し、残りの肉団子は白いご飯のおかずとして平らげる。

お腹も膨れ、程よく体がポカポカしてきたところで腕時計を見れば、ほどよく針が進んでいた。

お勘定を済ませて店を出ると、帰りは近道を使わずに、外灯に照らされた大通りを選んで歩いていく。

もちろん理由はただ一つ、家に帰る時間を少しでも遅らせるため。

時折空を見上げても、街の明かりが眩しいこの場所ではさほど星も見えない。

唯一はっきりと見えていた月は、ぼんやりと淡い光を放ち、いつだったか公園で見上げた時よりも幾分丸みを帯びていた。

何となくため息が零れ落ちて、下ろした視線の先に見えた白い後ろ姿に、思わずビクッと肩が揺れる。

よく見れば、それは白いワンピースではなく温かそうなコートで、ゆるく巻かれた茶色の髪が彼女とは明らかに別人だった。