秋の月は日々戯れに


何かを忘れようとするかのように飲んで、何かを振り切ろうとするかのように笑う。

そんな同僚にかけてやれる言葉が、何も思いつかないから、何も言わない。


「たいしょー!ビールもう一つ追加と、あと焼き鳥の盛り合わせ二つ。一つはタレで、もう一つは塩で!」


三杯目が届く前からもう四杯目の注文か!?と彼がぎょっとしたところで、同僚が


「日本酒のが良かった?」


追加で頼んだ方のビールは、どうやら同僚自身の分ではなかったようで、注文を終えてからの確認に、思わず彼は苦笑する。


「そっちこそ、ハイボールもチューハイもあるんだぞ」

「あたしは、焼き鳥にはビール一筋なの!」


焼き鳥の盛り合わせより一足早くついたビールのジョッキを持ち上げた同僚が、わざわざ体の向きを変えてそれを掲げてみせる。

その意図を汲み取った彼は、求められるままに自分のジョッキをぶつけた。

やがてタレと塩、それぞれの盛り合わせが到着すると、それ以降同僚は、先ほどの沈んだ表情が嘘のようによく笑い、食べ、そして飲み続けていた。

結局、彼が既婚者であるという誤解を解くことは、最後まで叶わないまま――。



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