秋の月は日々戯れに


それはアルコールのせいなのか、それとも別の理由があるのかは、彼には分からないけれど。


「……なんにもない人なんかさ、いないでしょ。皆何かしら嫌なこととか、辛いこととかがあって、でもそれを必死で押さえ込んで、外に出さないようにして生きてるんだよ」


唐突に語りだした同僚は、タレの絡んだ焼き鳥を食べるともなしにジーッと見つめながら続ける。


「ほんとさ、色々あるんだよ。色々……」


まるで焼き鳥に話しかけるように、色々あるのだと繰り返す同僚。

いつもわりかしカラッとした笑顔を浮かべている同僚には珍しく、声も表情もやけに沈んでいた。

やっぱり何かあったなと確信はいったものの、本人が語らないことを無理やり聞き出すのは彼としても気が引ける。

どうしたものかと悩んでいるうちに、同僚は勢いよくジョッキを空にして、三杯目をオーダーしていた。


「飲み過ぎると、明日に響くぞ」


それくらいしか言えなくて、でもそれくらいしか言えない彼を気にした様子もなく、同僚は赤くなり始めた顔でははっと笑う。


「明日は休みだもん。一日中ベッドで死んでるからへいきー!」