秋の月は日々戯れに


後輩はといえば、相当気に入ったのか、大皿を自分の前に引き寄せて、食べ終わる端から新しいのを皿に取り、夢中で厚揚げを食べ続けていた。


「なあ、なあ、やっぱりなんか飲みたいだろ?厚揚げに合いそうな酒が欲しくなってきたところだろ?」

「人に勧めることを楽しんでないで、自分で好きなだけ飲んだらいいじゃないですか」

「こいつ、ザルなんだよ。毎回最後は一人で飲むはめになるから、誰かを付き合わせたくてしょうがないんだ」


上司の言葉に彼は呆れたようにため息をついて、相変わらず後輩の頭を撫で回して酒を勧めている先輩を見やる。


「そういやあお前も、新人の頃はよく付き合わされて、トイレから出られなくなってたっけな」


面白話を披露するような声音に彼はもう一つため息をつくと、本日の生贄となっている哀れな後輩を残して立ち上がる。


「何だ、どこ行くんだ?」


不満げな上司の声に、靴を履き終えてから振り返ると


「お手洗いです」


そう言って、逃げるようにその場を離れた。

後輩は、酔うと寝る癖がある。

そうなれば、次のターゲットが自分になるのは、火を見るよりも明らかだった。

だからそうなる前に、彼は逃げた。



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