秋の月は日々戯れに



「正体なくすまで飲ませる気ですか」

「主役には楽しんでもらわなきゃいけないだろ?」

「楽しんでるのはどう見ても先輩の方ですけどね」


そんなこともないぞ、と後輩の頭を撫で続ける先輩の目は、完全に楽しんでいた。


「忘れたとは言わせませんけど、俺が新人の時の飲み会でも、そうやってガンガン飲ませてくれましたよね。おかげであの時はトイレと親友になれました」


「友達が増えて良かったな!」などと楽しそうに笑う先輩を、彼はジト目で見やる。


「いつか絶対、アルハラだって訴えられますからね」


げえ、と一気に嫌そうに顔をしかめた先輩は「最近はなんでもハラスメントになるんだもんなー」と不満げにぼやいた。

それから、彼の前にあるハイボールのグラスを掴んで、中身を勢いよく飲み干す。


「あっ、ちょっと!どさくさに紛れて何してるんですか」

「いや、お前が姑息な飲み方して杯数重ねないように画策してるからさ。ちょっと阻止してやろうかと」

「俺には俺のペースがあるんです!姑息とか言わないでください」


ヘラヘラと全く意に介さず笑う先輩を睨みつけていると、そこに煙草を吸い終わった上司も帰ってきて、何だ何だと楽しそうに混じってくる。