秋の月は日々戯れに


またしても、つまらん!とぼやいた上司は、突如胸ポケットをゴソゴソとあさりながら立ち上がった。


「あれ……おれの命が」

「ああ、煙草ですか。上着の方に入ってるんじゃないですか?」


なるほどと頷いた上司は、若干ふらつきながら奥の座敷に上着を取りに行って、そのまま店の外へと消えていく。


「よく分かりましたね。あの呟きで」

「お前よか付き合いが長いからな」


ふふんと得意げに笑った先輩はチラッと後輩に視線を移し、脇目も振らずに厚揚げにかぶりついているその姿に苦笑する。


「将を射んと欲すれば先ず馬を射よって言葉があるけど、こいつの場合はその馬にはなりえないか……。それに、もう別の奴にガッツリ射られてるもんな」


よく分からないことをボヤきながら、今度は視線が彼の方へと移動する。


「何の話ですか?」


訝しげに彼が問いかけると、先輩は「こっちの話」とはぐらかすように笑った。


「それよりお前、そろそろなんか飲みたくなってこないか?ん?生いっとくか。それとも日本酒?」


ぽんぽんと楽しそうに後輩の頭を撫でる先輩に、彼は呆れたように表情を変える。