秋の月は日々戯れに


痛い、痛いと喚く後輩の目元に、じわりと涙が盛り上がった。

強く入れすぎたかとギョッとした彼に、後輩は涙をいっぱいに貯めた瞳を向ける。


「先輩の一番の後輩は、オレっすからね!例え入れ違いで来た新人がどれだけ優秀で、どれだけ性格がよくて、どれだけ先輩に懐いても、一番はオレっすから!オレが一番先輩のこと尊敬してて、一番先輩のこと好きっすから!!」

「分かった!分かったから叫ぶな!」


酔っ払って声量がバカみたいに大きくなっている後輩の声に、店内中のニヤニヤした視線が彼へと突き刺さる。


「豆腐は好きか?好きだな。よし、とりあえずこれでも食って落ち着け」


目に止まった皿から料理を取り分けて後輩の前に置くと、これ以上何か叫ぶ前に箸を握らせて、料理へと意識を移させる。

ぐしぐしと何度か鼻を啜った後輩は、素直に「いただきます」と言って料理に箸をつけた。


「美味しいっすね、厚揚げ。外カリカリで、中ふわふわで、タレがとろとろ」


へへっと目尻を下げて後輩が笑う。

とりあえず、豆腐が口に入っている間はまた叫びだすこともないので、彼はホッと肩の力を抜く。