秋の月は日々戯れに



「せんぱーい!」


いつかは絡みに来ると思っていたが、後輩が彼の元にやってきたのは、思っていたよりずっと時間が経ってからだった。

予想通り涙でぐしゃぐしゃの顔をして、後輩は何の躊躇もなく彼に飛びつく。

かろうじて、鼻水は垂らしていなかった。


「先輩、絶対オレのこと忘れないでくださいね!もし忘れそうになったら連絡ください。オレ、すぐ飛んでいきますんで!!」

「大げさだな。一生会えなくなるわけじゃないだろ。……多分」

「だって先輩ってば、オレがいなくなった途端、速攻でオレのこと記憶の中から消去しちゃいそうだからー!」

「俺のことをどんだけ薄情な奴だと思ってんだ」

「先輩は情に厚い男なんで、オレのこと何があっても忘れないって信じてます!」


ついさっきまで、薄情者と言わんばかりのセリフをぼやいていたのに、言っている事が今度は真逆になっている。


「飲み過ぎなんだよ。この酔っぱらいが」


脳天に手刀をお見舞いし、痛がっている隙に絡みつく後輩の腕を振りほどいて体を押しやる。