秋の月は日々戯れに



「いいよね、他人ごとだから簡単に言えて。でも実際は、」

「簡単なことだろ。難しく、いや、めんどくさく考えすぎなんだよ。ほんとめんどくさいぞ、いい歳こいて」

「”いい歳”とか言うな!まだそんなに歳じゃない。それに、めんどくさいって何度も言うな!」

「充分いい歳だろ。これを逃したらきっと、婚期も一緒に逃すぞ」

「うっさいバカ!女性に向かって失礼なのよ。このデリカシーなし男!!」


やけくそのようにカシスオレンジを煽って、唐揚げをバカ食いする同僚を、彼は呆れたように見やってビールを飲む。


「やっぱダメだ。こんなジュースみたいのじゃ物足りない。愛美ちゃん!あたしに生一つ」


せかせかと忙しそうに動き回っている受付嬢は、別にこの店の店員でもなんでもないのだが、立っているものはなんでも使えな精神で、同僚は手を上げて声高に注文を告げる。

受付嬢は嫌な顔一つせずに仕事中と変わらない笑顔で「はい、喜んで!」と楽しそうに応えた。


「酔っても背負ってやれないからな」

「誰が二度も世話になるか!この女の敵」


そう言って同僚は、彼の為に取り分けたはずの唐揚げに箸を突きたてた。



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