秋の月は日々戯れに



「滅多に飲み会に参加しないあんたが行くって言うんだから、これはもう飲むっきゃない!」


理屈はよく分からないが、とにかく飲みたいのだということはよく分かった。


「なら、さっさと行こう。これ以上ここにいたら、寒くて凍りそうだ」

「大げさだなー。意外と寒がり?」


そう言って笑う同僚の方がよっぽど厚着で、どっちが寒がりだよと思いはしたが、そこは言わずにおく。


「じゃあ、まずは焼き鳥だな。路地抜けていくと早いんだ。こっち」


家路を急ぐ人の波を背中に感じながら、ビルとビルの間の細い路地へと入っていく。


「へー、ここってどっかに繋がってたんだ。てっきり、最後は行き止まりかと思ってた」

「大通り抜けていく道もあるけど、こっちのほうが断然近いことをつい最近発見した。けど、一人の時はくれぐれもここ通るなよ。外灯なんてほとんどないから、日が落ちたら結構暗くなるんだ」

「はいはい。お父さん、お父さん」


クスクスと可笑しそうに笑う同僚を「真面目に言ってんだぞ」と軽くたしなめながら、彼はどんどん路地を奥へと進んでいく。

そのあとを追うように、カツカツと軽やかなヒールの音が響いた。



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