秋の月は日々戯れに


お鍋でお湯を沸かしながら、冷凍しておいたご飯を皿に入れてレンジにかける。

沸いたお湯に中辛の袋を投入すると、彼はしばらく、グツグツ煮立つ鍋の中をぼんやりと見つめていた。

そんな時、どうしても考えてしまうのは彼女のこと。

今までふとした拍子に考えてしまうのを何とかやめようと頑張ったのだが、どうにも無理だったので、もう諦めた。

今どこにいるのかとか、なぜ急にいなくなってしまったのかとか、そういうことではなくて、考えるのはいつも、分かっているのに認められない自分の気持ち。

認めたからってどうにかなるわけでもなくて、むしろ認めてしまったら最後、自分が苦しい思いをするのは目に見えているから。

だから、分かっていても、分からないフリで目を逸らす。

それだって本当は充分苦しいけれど、だからってどうするのが一番いいのかは、彼にも分からない。

彼女と出会ったばかりの頃ならば、きっとこんなに思い煩うことはなかった。

煩わしい幽霊がいなくなったと清々して、すぐさまいつも通りの自分に戻れていた。

でも彼は、彼女と出会って変わってしまった。

本人に自覚はないけれど、周りが皆そう言う。

雰囲気が柔らかくなったとか、話しかけやすくなったとか、よく笑うようになったとか――。