秋の月は日々戯れに


「ああ、そうなのか」と返した彼に、受付嬢は申し訳なさそう顔で


「きっと拓、当日は大号泣だと思うので、先輩さんのスーツを汚してしまったらすみませんと、今から謝っておきますね」


改まったように、深々と頭を下げた。

その光景が鮮明に想像できてしまって、思わず彼は遠い目になる。


「……涙ならまだしも、鼻水つけられたら最悪だな」


遠い目をした彼の呟きに、また受付嬢が「本当にすみません……」と頭を下げる。


「でもまあ、あいつがそういう場面で泣かないわけないよな」


ティッシュとハンカチは忘れずに持っていこうと固く誓いながら、彼は呟く。


「拓は、昔から泣き虫なんです。中学生になる少し前に、転校していくクラスメイトのお別れ会をした時なんか、主役の子よりも大号泣だったらしいですし」


その場面を想像して、思わず彼は笑ってしまった。


「今回は主役が自分だからな、その時よりきっと酷いぞ」


彼の言葉に、受付嬢は小さく息を吐いて


「ほんと、どうしようもないです」


苦笑気味に笑った。