秋の月は日々戯れに



「この辺で飲める所だと、焼き鳥屋と中華居酒屋なら知ってるけど」


たまに一人で行く店をいくつか思い浮かべながら、その中でもここから徒歩圏内の場所をピックアップして伝える。


「うーん……迷うな。焼き鳥か、中華か……」


顎に指を添えたポーズで固まった同僚は、ブツブツと呟きながら真剣に悩み始める。


「やっぱり締めにはラーメンか、いやでも焼き鳥にビールってのも捨てがたい」


めっきり寒さが増してきた今日この頃、外での立ち話は長時間になるときつい。

一旦社内に戻ることも考えて彼が背後を振り返ると、「よしっ!」と威勢のいい声がした。


「焼き鳥食べて、締めにラーメン。これで決まり!」


どうやら、どちらか一つは選べずに、結局二つとも行くことに決めたらしい。


「あっ、でもあんまり遅くなるとまずいか」


しまった!とでも言いたげな顔で見つめられ、彼は訝しげに首を傾げる。


「だってただの同僚とはいえ、女と二人で遅くまで飲んでたなんて、奥さん心配するでしょ。あたし、泥沼の不倫問題に巻き込まれるの嫌だし」


なるほど、いつまで経っても受付嬢の誤解が解かれないのはこのためか。