「ご希望がないようでしたら、月並みなところで“負けた方は勝った方の言うことをなんでも一つだけきく”というのはどうでしょう」
「どうでしょうって……」
そもそも、そんな罰ゲームじみたルールなんて付けないという選択肢はないのか――。
「よっぽど自信があるんですね。罰ゲームなんてものを最初に言い出す奴は、大抵勝負に自信のある奴なんですよ」
彼の言葉に、彼女は笑った。
「そういうあなたは、よほど自信がないのですね」
なんだかバカにされているような気がして、いやきっとバカにしているんだと思って、彼は不機嫌そうにムスっと膨れた。
「別に、そういうわけじゃないですけど……」と口の中でもごもご呟いていたら、彼女はクスッと笑って、さりげなく彼の隣に移動した。
例え触れ合っていなくても、少し動けば触れてしまうような距離に彼女の腕があれば、冷気のようなものが伝わってくる。
完全にくっつかれている時はまるで氷を押し付けられているようだが、距離があれば少し違って、それは冷蔵庫を開けた時に流れ出てくる冷たい空気にどこか似ていた。



