生気の欠片もない、青白い背中。
傍から見れば、部屋の中に幽霊がいるというひどく恐ろしい状況のはずなのに、彼はその白い背中に、恐怖は感じない。
初めて会った時から、ずっとそうだった。
ビックリしたことは何度もあるが、怖いと思ったことは一度もない。
「そう言えば、次の休みに付けますからね、電話。俺の携帯を登録するので、それ以外の番号からかかってきたのは、不用意に出ないでください」
洗い物に戻って、彼女に背中を向けながら彼が言う。
「不用意にということは、細心の注意を払えば出てもいいということですね」
「出るなって言ってるんです。それくらい察してください」
お互いに、背中を向けたままの会話。
テレビから流れてくるのは、お決まりの刑事ドラマのテーマソング。
「洗い物、もう終わりますか?」
「なんでですか」
「先週の予告で見た限り、今日の回はとても面白そうなんです。難事件の予感がしています」
「だからなんなんですか」
キュッと水道を止めて振り返ったら、彼女もまた彼の方を向いていて、二人の視線が絡み合う。



