触れ合った場所が冷たくて、寒くて、でもそれが、彼女が自分の隣にいるという確かな証。


「……ありがとうございます」


彼女が、小さく呟いた。

それは、テレビから流れてくる音にかき消されてしまいそうな、小さな声。

けれどすぐ隣にいる彼には、しっかりとその声が届いた。

返事はせずに、テレビを見るともなしに見つめたまま、黙ってコーヒーを啜る。


「何かをしてもらうというのは、案外照れくさいですね。してあげるのには慣れていますが、してもらうのには慣れていません」


「あなたは普段、妻であるわたしに、愛の言葉一つくれませんからね」と続けた彼女の口調は、どこかおどけている。


「幸せすぎて、なんだか成仏できちゃいそうです」


けれど次に聞こえた言葉は、おどけた中にも妙なリアルさがあって、彼は思わず彼女の方を見やる。

いつもならここで、目を合わせてにっこり微笑むはずの彼女が、今日はテレビから目を離さない。

それがより、言葉に現実味を持たせる。

エアコンが熱風を吹き出す音に、彼女がテレビに合わせてエンディング曲を口ずさむのが混ざり合って、二人だけの静かな時間が、ゆっくりと流れていく。

けれど彼の心は、なぜだか妙にざわざわしていた。