秋の月は日々戯れに



「もしそんなところを職場の誰かに見られでもしたら、あなたは職を失うでしょう」


彼女は、恐ろしいことをサラッと言う。

職を失いはしないだろうが、会社に行きづらくなるのはまず間違いない。


「というのが建前で、本当はわたしの知らないところで、あなたが女性と会うのが嫌なだけです」


この人は、意外にちゃんと考えているんだな――なんて、途中までは思っていたのに。


「例え相手が同僚さんや受付嬢さんであったとしても、妻として、ここは譲れません」


危うく見直してしまいそうになったが、早まらなくて正解だったらしい。

彼は呆れの混じったため息を深々とついて


「あなたは妻じゃなくて、ただのとり憑いてきた幽霊ですから」


久しぶりにそのセリフを口にした。

途端に、彼女の表情が不服そうに変わる。


「あなたは、どうして二人になると決まってそういうことを言うのでしょうね。……この天邪鬼」

「最後の悪口、思いっきり聞こえましたからね」


彼女は、ツンっとそっぽを向いて聞こえぬふり。

その時、どこからか電話の音が聞こえて彼は顔を上げた。