秋の月は日々戯れに


どうして彼女が怒っているのか、受付嬢が不思議そうに首を傾げる中、彼はそれ以上怒りを煽らないように静かに風呂場へと向かう。


「旦那様はどちらに?」

「着替えです。あっ、受付嬢さんはどうぞ、お好きな場所にお座りになってください」


彼女の声のトーンがコロッと変わったのを背中に聞きながら、彼は廊下に出てドアを閉めると、風呂場の脱衣所でいつも通り着替えをする。


「餅巾着か……」


油揚げに餅を詰めただけというその作業で、一体どんな微妙なものを作り出したのか――気にはなるが、一番に口にすれば彼女がとんでもなく喜ぶだろうことは目に浮かぶから、あえて最後まで手をつけずにおこうなどと考えながら、彼は脱いだものを手に部屋に戻る。


「あっ、おかえりなさい。お先に始めさせてもらっていました」


そう言ってペコッと頭を下げた受付嬢は、箸で掴んでいたちくわに息を吹きかけて、はぐっと小さく齧りついた。


「あなたも座ってください。脱いだものはこちらに。洗濯するものは、カゴに入れてくださいましたか?」


彼女に脱いだスーツを一式手渡しながら返事をすると、言われた場所に腰を下ろして、すでにおでんが盛られた皿と箸を手に取る。