秋の月は日々戯れに



「おかえりなさい!あら」

「お邪魔します!」


いつもの通り、帰宅した彼を笑顔で出迎えに来た彼女は、その後ろに立つ受付嬢の姿に一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにまた笑顔に戻った。


「突然で申し訳ないのですが、ちょっとご相談したいことがあって、ご主人に付いてきてしまいました。あっそれと、この間お話したレモンティーも持ってきたんです!」


彼を指して言った“ご主人”という言葉に、彼女は満足そうに笑みを深めると「どうぞどうぞ」と上機嫌に受付嬢を誘う。


「常々思っていましたが、受付嬢さんはとても礼儀正しい素晴らしい方です。ね?“あなた”」


これみよがしな“あなた”呼びをサラッと無視したところまでは良かったのだが、いつもの癖でつい伸ばされた手に上着と鞄を預けてしまう。

それに対して、彼女が小さくクスリと笑った。


「……何ですか」

「いえ、別に」


心なしか、彼女は嬉しそうだ。


「受付嬢さん、お夕飯はもう召し上がりましたか?今日はおでんを作ったんですけれど、良かったらご一緒にどうですか」


初めは受付嬢に敵意をむき出しだったくせに、正妻の座は譲らない!などと訳の分からない事を叫んでいたくせに、今ではすっかり態度を改めている。