「……電話、か。あの人は、使えるのかな」
流石に幽霊に携帯を買ってやるわけにはいかないから、固定電話を取り付ける方向で考えてみる。
考えが声に出てしまっていることなんて彼は気がついていないから、もちろんそのセリフを聞いた受付嬢が、隣で不思議そうな顔をしているのも知らない。
「あったら、まあ……便利だよな」
突然の来客がある時や、残業や飲み会で遅くなるときなど、彼女への連絡手段があれば、急な予定が入ってもいつでもそれを伝えられる。
そうすると、真っ暗闇の中で不機嫌全開の彼女に出迎えられるという恐怖も、なくなるわけだ。
「……聞いてみるか」
そう呟いたところで彼はハッと我に返ると、慌てて隣を伺う。
目が合った瞬間、受付嬢はにっこりと笑った。
「いいですね。離れていてもお互いを想い合う、これぞ理想の夫婦って感じです」
言いながらうっとりし始めた受付嬢に、彼は咄嗟に返す言葉が見つけられない。
「拓にとってのさやかさんも、まさに理想の存在なんです。拓みたいな、意地も男気も勇気もないヘタレには、さやかさんみたいな大人の女性でないと、と常々思っていたんです私。だからさやかさんに見捨てられてしまったら、拓にはもう”家庭”という温かい未来は来ないのですよ!」



