この世の終わりみたいな顔をして、受付嬢は大げさに嘆く。
「心の距離が離れてしまっている今、実際の距離まで離れてしまったら、もうそれは修復不可能ではないですか!でもそれだと困るのですよ。さやかさんは困らないのですけれど、わた!いえ、拓の方が困るのです!!」
前半歌詞みたいだったな――とのんきな事を考えていた彼に突然向き直り、受付嬢は目に闘士を燃やして熱く語る。
勢いに押されて何となく彼が頷くと、受付嬢は鼻息も荒くグッと胸の前で拳を握り締めた。
「ですから私は、こうして先輩さんの奥様に助言を求めに行くのです。突然の来訪による失礼は重々承知ですが、これも私!……じゃなくて、拓の幸せの為です!そのお詫びというにはささやか過ぎますが、この間お話したレモンティーを持参いたしました」
――前口上をここで述べられても……できれば家に上がってから、あの人に直接言って欲しい。
「まあ、たぶん大丈夫だと思うぞ。そんなに気負わなくても」
今まで何度も突然の来客はあったが、彼女は一度だって嫌な顔をしたことはなかった。
来客の事を伝えたくても、彼の部屋に固定電話なんてものはないし、彼女は携帯を持っていないから連絡のしようもないという根本的な理由もあるけれど。



