いつもなら“触ってください”と来そうなところを、彼女は“触ってもいいんですよ”と、彼の反応を伺うようなことを口にする。
いつものようにグイグイ来られれば返しようもあるのに、そんな風に反応を伺うような言い方をされると、なんと返せばいいか分からなくなる。
しばらく彼が黙っていると
「あなたは、最初の頃からそうでしたね」
彼女がふっと笑って言った。
「あなたはいつだって、わたしに触れようとするたびに躊躇する。そして、結局触れないんです」
「今も、そうでしたね」と続いた言葉に、彼は何も答えない。
なんと答えていいのかが、分からない。
それでも彼女は、構うことなく話し続ける。
「わたしね、覚えていないんですよ。生きていた時のことは、何も」
続いた言葉は予想外のもので、彼はつい逸らしていた視線を彼女に戻す。
悲しい話をしているのかと思ったが、彼女の顔には、悲しさも、寂しさも、虚しさすらも浮かんではいなかった。
ただいつものように、穏やかに笑っている。



