同僚だけではなく、受付嬢の前でも夫婦であることを否定しなかった事を言外に含んでいるのは明白で、その余裕ぶった笑顔とセリフがなんだか悔しかったから、彼は彼女の腕を振りほどくようにして距離を取った。
「照れているんですか?」
けれど彼女は、笑みを絶やすことなくまた距離を詰める。
「照れてるんじゃありません。強いて言うなら、あの時すぐさま否定しなかったことを悔やんでいるんです」
「それはそれは」
「あと、あなたがくっついてると寒いからです」
「それは、エアコンの温度を上げれば解決ですね」
リモコンが操作されるピピっという音がして、送風口から温かい空気が吐き出される。
「これで、寒さについては問題ないですね」
満足したように頷いて、彼女はまたピッタリと彼に寄り添う。
「そんなにひっつかれると動けないんですけど」
「なら、動かなければいいのですよ。たまには、妻とのゆったりとした時間を楽しんでください」
結婚なんてしていない、だから夫婦じゃない、つまり彼女は妻ではなくて、そもそも――生きてすらいない。
言いたいことはいっぱいあったけれど、なぜだか一つも言葉にはならなかった。



