秋の月は日々戯れに



「そ、そんな……まさかさやかさんは、私と拓がそういう関係だと勘違いして、拓に見切りを付け……」


言葉を途中で途切れさせた受付嬢は、ハッと息を吸い込んだかと思うと、未だすやすやと寝息を立てている後輩を睨みつけ、その頭を渾身の平手で叩いた。

叩かれた勢いで額がテーブルにぶつかり、ごんっと鈍い音を立てる。

そこでようやく「う、んん……」と後輩に目覚めの兆しが見えた。


「拓みたいに、どうしようもなくて情けない男を選んでくれる人なんてさやかさんしかいないのに……それなのに…………この、大バカが!!」


すぐ隣から響いた大声に、後輩は驚いたようにガバっと身を起こす。

いつもにこにこ笑っている男性社員の密かなる癒しが、まさか怒ると怖いだなんて予想もできなかった彼は、ただただ呆然と、怒りに震える受付嬢と、その怒りの矛先となっている後輩とを眺める。


「私達はれっきとした従兄弟であって、それ以上でもそれ以下でもないって、なんでちゃんとさやかさんに言わないのよ!言っておかなかったのよ!!やっぱり全部拓が悪いんじゃないこのヘタレバカ!」