秋の月は日々戯れに


キッと後輩を睨み据えた受付嬢は、今にもその頭を平手で殴りそうな勢いだった。

その反応を見て、彼は確信する。

やはり自分は勘違いをしていたらしい。

後輩が付き合っていたのは受付嬢ではなく、“さやか”、同僚の方だった。


「とりあえず今すぐ叩き起してその浮気相手の名前を吐かせて……!」

「後輩さんと親密な関係だと思われている相手は、あなたのようですよ」


怒り心頭だった受付嬢は、彼女の言葉にピタッと動きを止める。

それから、まるで機械仕掛けの人形のようにぎこちなく首を動かして彼女の方を見やると


「……今、なんと?」


彼女はにっこり笑って、もう一度同じセリフを繰り返す。

今度は意味を理解したらしい受付嬢は、途端に顔から怒りがさあっと引いていく。


「ご、誤解です!とっても心外なので全力で否定させてもらいますけれど、私と拓はただの従兄弟なんです!それ以上の関係になんてなりえませんし、ありえませんし、考えられません!!」


必死の形相で否定する受付嬢に、彼女は何ともわざとらしい驚き顔で「そうだったのですか!」などと言っている。