秋の月は日々戯れに


“濃い”を強調して嫌味っぽく放った彼のセリフを


「いつもより“濃い”めに淹れましたからね。美味しいかどうかは分かりませんけれど」


彼女はさらりと受け流す。

そして、温かいお茶を飲んでほうっと息を吐いている受付嬢に向かって


「ところで、後輩さんが浮気をしているというのは本当なのですか?」


なんの脈絡もなくそう言い放った。

予想もつかなかったそのセリフに、彼の方が驚きで危うく口に含んでいたコーヒーを吹き出しかける。

受付嬢はというと、マグカップを両手で持ってポカーンとしていた。


「……そう言えば先輩さんも先ほど、浮気がどうしたこうしたと言っていましたよね。ここに来る前に拓から届いたメッセージにも、さやかさんと破局の危機だと書いてあって……」


ぼそぼそと呟きながら何か考え込んでいた受付嬢は、しばらくしてハッと目を見開いて顔を上げた。


「拓の奴、さやかさんという人がいながら、別の女性とも親密な関係になっていたんですか!!」