反応がないところを見ると、やはり寝ているらしい。
「アルコールが入ると大抵こうなるんですよね。調子よく喋っていたかと思ったら、気づいたときにはもう寝ているんです。目上の人と飲む時には気をつけろっていつも言っているのに、本当にどうしようもないですよ」
ため息混じりにそう言って、受付嬢は眠る後輩を見つめる。
その眼差しは、なんだか恋人を見つめているというよりは、しょうのない兄を心配する妹のようだと彼は思った。
そこに、後輩が泣きながら喚いた“浮気”という言葉、さきほど受付嬢が放った“さやか”という名前を合わせて考えていくと、なんとなく事の次第が見えてくる。
――どうやら、初めから勘違いをしていたようだ。
「お待たせしました!温かいお茶と、それからコーヒーです」
「ありがとうございます!」
笑顔でぺこりと頭を下げる受付嬢の前にはお茶を、彼の前にはいつもより黒の濃いコーヒーを置いて、彼女は空いているところに腰を下ろす。
「いつもより色が“濃い”めで美味しそうですね」



