秋の月は日々戯れに


聞いているうちにため息を付くのさえバカらしくなった彼は、何も言わずにコーヒーに手を伸ばす。

これは、一旦コーヒーでも飲んで落ち着かないと、何かの拍子にまた怒りが爆発しそうだった。


「それであの……実は、もう一つ話があってね」


恐る恐るといった様子で切り出す同僚に、彼はカップを口元に当てたまま視線だけを動かす。

どうやら謝罪はついでで、ここからが本題だったらしく、同僚はますます言いづらそうに口をもごもごさせていた。


「話というか、相談……というか。とにかく、聞いて欲しいことが……」


そこで一旦言葉を切った同僚は、自分自身を落ち着かせるように深く息を吐いたり、コーヒーを飲んだりしてたっぷり間を空けたあと、思い切ったようにまた口を開いた。


「う、浮気って、どういう時にしようと思う?!」

「ぶふっ!!?うわっつ!!」


突然の予期せぬ問いにコーヒーを引き出しかけた彼は、慌てて飲み込んだことで今度は口内を火傷する。


「……今、動揺しましたよね」

「違いますよ!ビックリしただけです。それより何か拭くもの」