ビシッと顔を指さされ、突然自分の方に向けられた青白い指先に、彼は怯んで僅かに身を引く。
眉間のシワが心配の現れだなんて思いっきり彼女のデタラメだが、同僚がおずおずと顔を上げたので、彼は言い返すこともできずにむっつりと押し黙る。
「いいですか、言いたいことがいつでも言えるというのは、当たり前の事ではないのです。“ありがとう”も“ごめんなさい”も“大好き”も、そんな些細なことでさえ、いつ言えなくなるかなんて誰にも分からないんですよ。ですから、言えるときに言っておくべきです!」
その言葉は誰が言うよりも、幽霊である彼女の口から聞くのが一番説得力がある。
当然、彼女の正体が幽霊である事を知らない同僚には、彼ほどには響いていないかもしれないけれど。
「それに、せっかくここまでいらしたんです。言わずにお帰りになるのはもったいないですよ」
そう言って笑う彼女に、しばらく迷うように視線を動かしていた同僚は、おずおずとではあるけれど、ようやく彼と正面から目を合わせた。



