秋の月は日々戯れに



「ご家族の方に連絡はしたんですか?連絡がないと、お家で待っている方が心配されているんじゃ……」

「スマホにロックがかかってたんで、誰にも連絡のしようがありません。向こうからかけてきてくれたら別ですけど。今のところ、そんな兆しは一切ありません」


ジャケットを脱いでネクタイを緩めていると、音も立てずに近寄ってきた彼女が当たり前のように手を伸ばす。

抵抗する気力もない彼は、素直に脱いだものをその手に渡していく。

その間彼女の視線はきょときょとと忙しなく、ベッドの上と彼との間を行き来していた。


「こちらが、今日一緒に飲む約束をしていたという後輩さんですか?」

「……そんな約束をしたばっかりに、こんな大荷物を抱えて帰ってくるはめになったんです」


激しく後悔しているような深いため息に、彼女はほんの少し苦笑する。


「でも、随分と楽しかったみたいですね」


「どこがですか」とげんなりした顔を上げると、彼女はベッドの後輩を指差した。