秋の月は日々戯れに



「おかえりなさい!随分と早かったです……ね」


ドアの開く音に、洗濯物を畳んでいた手を止めて顔を上げた彼女は、部屋の入口に立つ彼の姿に目を見張った。


「……なんで電気点けてないんですか」

「え?……あっ、今日は帰りが遅くなると思っていましたので。わたしは、暗くても関係なく見えますし」


「電気代の節約に」と続けた彼女に「暗闇にあなたの組み合わせは怖すぎるので、これからは点けてください」と返した彼は、重たい足を引きずるようにして部屋に入る。


「……そこ、通りますから開けてください」

「あっ、はい」


彼に指示されるまま、彼女は畳んだ洗濯物を素早く脇に寄せて道を開ける。

自分が立っている場所から、ベッドまでの道をしっかりと見据え、気合を入れるように深く息を吐いた彼は、彼女が開けた道をゆっくり一歩一歩踏みしめるようにして歩いていく。

その間に彼女は彼とすれ違うようにして部屋の入口に走ると、真っ暗だった部屋に明かりを灯す。