秋の月は日々戯れに


まあ後輩の場合は、贅沢な悩みであるとは思うけれど――。

それにしても、なぜ自分は同僚に引き続いて後輩とまでも、こうして二人で飲んで、更には中途半端な悩み相談まで受けているのだろうと考えた。

本当は考えるまでもなく、原因は全て彼女にあるのだけど、それでもふと考えてみる。

幽霊である彼女にとり憑かれなければ、彼の生活はきっと変わることなんてなかった。

何も変わらずいつも通り――大量の仕事を黙々とこなして、終われば飲みの誘いを断って家に帰り、コンビニ飯を食べて風呂に入って寝るだけ。

そんな生活に特に不満を感じたことはなかったが、他人はそれを見て味気ないと言う。

でも今は、そんな日々が懐かしい。

大量の仕事を黙々とこなすことに変わりはないが、家に帰れば騒々しい幽霊がいて、その幽霊が作ったご飯があって、食後にはコーヒーまで出てくる。

今頃その幽霊であるところの彼女は、一体何をしているのだろう――そんなことを考えていたら、不意に声が聞こえた。

視線を落としてみると、薄く口を開いた後輩が、寝言で何かを囁いている。

なんと言ったのかまでは分からなかったが、それはなんだか、誰かの名前を呼んでいるような、そんな響きがあった――――。