それに、ジーッと顔を見つめられて噛み締めるように“素敵だなと思って”とはよく言われるが、残念ながら本能が荒ぶることもなければ、もちろん理性とせめぎ合うこともない。
打ち明けられた悩みにイマイチ共感できないまま、彼は烏龍茶を飲みつつ、目の前でテーブルに突っ伏している後輩を眺める。
しばらくすると、突っ伏したままもごもごとまだ何か言っていた後輩の声が、段々と小さくなっていく。
「……ん?」
耳を澄ますと、いつの間にか後輩は安らかな寝息を立てていた。
「……嘘だろ」
散々飲んで食って騒いだ後輩は、結局彼の話なんて一言も聞かずに、夢の世界へと旅立ってしまった。
「……ったく」
顔面をテーブルに押し付けたままでは苦しいだろうと、彼は腰を浮かせて手を伸ばすと、後輩の顔を何とか横向きにして再び腰を下ろす。
自由すぎる後輩に呆れ返りながら、ついでに彼は、握り締めたままのお猪口を無理やり抜き取った。
「お気楽そうに見えて、お前にも意外と悩みがあるんだな……」
本人が寝ているのをいいことに、割りと失礼なことをサラッと呟いて、彼は残っていた烏龍茶を飲み干す。



