秋の月は日々戯れに



「そもそも、今更異動ってどういうことっすか!先輩は、あんな綺麗な奥さん残して急に単身赴任とかできます?できませんよね!オレなんてまだ結婚もしてないし、付き合ってる段階でしかないから尚更心配で……。だって、オレのいない間におかしな奴に言い寄られたりしたらって、考えるだけでもう……!」


けれど、彼がそれを口にするより先に、後輩が大仰に嘆き出す。


「いや、でも……」

「先輩は、奥さんが変な奴に目をつけられて、自分のいない間に口説かれたりしたらって考えたら、心配じゃないんすか!!」


思い切って言いかけた言葉は、途中で勢いよく顔を上げた後輩に遮られる。

いつものことながら、口を挟む隙がない。

そもそも彼女は奥さんではなくて、生きてすらいなくて、ただのとり憑いてきた幽霊なのだとこの際説明してやろうかと思ったが、とてもそんな話が出来る状況ではないし、酔っ払いにそんな話をしたところできっと明日には忘れている。

夫婦だなんて彼女が勝手に言っているだけで、本当は結婚なんてしていないから、彼女が誰に口説かれようと別に構わないし、むしろ幽霊でもいいからと口説いてくれる人がいるなら彼としては万々歳だ。