秋の月は日々戯れに


その拍子に、取り皿の上でカランカランと箸が転がって、彼は転がり落ちる前に慌ててそれを押さえた。


「好きだなーと思ってって……そんな、改めて噛み締めるみたいに言われたら……!!」


言われたらなんなのだろうと思いながら、念のため箸を安全そうな箸置きの上に移して、彼は烏龍茶を啜る。


「オレ、荒ぶる本能と戦うのが大変なんすよ!!」


思わず、口に含んだ烏龍茶を吹き出しそうになった。


「普段はヘタレな性格が先に立って、とてもじゃないけど手なんか出せないっすけど……あ、あんな、可愛い顔して言われたら……ヘタレだって押し倒したくなるんすよ!!」


続いた言葉に、吹き出す寸前で慌てて飲んだ烏龍茶が、今度は器官に入ってむせ返る。


「先輩だって、あんな綺麗な奥さんにそんなこと言われたら、きっと耐えられませんよ!本能と理性が、激しくせめぎ合うんっすよ。オレなんて、せめぎ合い過ぎて最終的に頭痛くなりますから!」


なぜだか自慢げに語る後輩を横目に、彼は咳のしすぎでヒリヒリする喉に、ゆっくりと烏龍茶を流し込む。

とりあえずは、ここが個室とはいえ店の中だという事を後輩に思い出させて、声のボリュームを落とさせなければいけない。