秋の月は日々戯れに


酔いの回った後輩の本日何度目になるか分からない乾杯に付き合いつつ、彼はチビチビと烏龍茶を飲む。

さっきからずっと、なにか大切なことを忘れているような気がするのだが、それがちっとも思い出せない。

思い出せないということは、さほど大切ではなかったということなのでは、と思ってみたりもしたが、なんだかしっくりこない。

何とか思い出そう、自分は酔ってはいないのだから、きっと思い出せるはず――そう念じながら、後輩の飲みっぷりを眺めて考えていると


「ふへへ……へへっ」


突然後輩が、怪しい笑い声をあげて表情を崩した。

まるで顔中の筋肉から力が抜けてしまったように、それはもうだらしない顔の後輩。


「聞いてください先輩、オレの彼女の話」


そして突然に、彼女自慢が始まる。


「前にね、こうして二人で向かい合ってご飯食べてた時、やたらとオレの顔見てるから、なに?って聞いたんすよ。そしたら恥ずかしそうに笑って、好きだなーと思ってって!そんな……そんな可愛い事言うんすよ!?」


今までのどのタイミングでその話を思い出したのかは謎だが、後輩は耳だけでなく顔も赤く染めて、テーブルの端にダンっと拳を打ち付ける。