秋の月は日々戯れに



「それで、幽霊みたいなお顔で帰宅したのはどうしてですか?それほどに、お仕事が忙しかったんですか?」


彼女の言葉に彼は、しばらくカップを唇に当てたままぼんやりと遠くを見つめ、やがてため息と共に現実へと戻ってきて口を開いた。


「あいつ……同僚が、休んだんですよ。インフルエンザになったそうで」

「インフルエンザ……ですか。それは大変です」

「……ほんとかどうか、怪しいもんですけどね」


今朝方会社の自動販売機の前で、満面の笑みで近づいてきた上司に、彼は同僚がしばらく休みを取った事を知らされた。

「だって、インフルエンザだって言うからさ。無理して来られても、皆困るだろ?それに、あいつ有給結構溜まってたしな。消費させろって上が煩いんだよ。だからさ、しばらく大変だろうけど、頼むよ」というのが上司の言い分。

そして一人欠けた分の皺寄せは、当然のように彼の元へと回ってきて、その結果が今日の疲労困憊での帰宅へと繋がっていく。


「これからしばらくこんな感じなのか……」