秋の月は日々戯れに


何も知らない人が見れば、その動きは生きている人間にしか見えない。

彼女の正体を知っている彼でさえ、あまりに自然な動きについつい足元を確認してしまう。


「……うん、ちゃんと透けてる」


「何か言いましたか?」と首を傾げながら歩いてきた彼女に「なんでもありません」と返して、バレないようにそっと足から視線を外す。


「あっ!ひょっとして、日に日に出来る妻になっていくわたしに感心してしまいましたか!もしくは、惚れ直してしまったと」

「いえ、全く」


食い気味に答えた事が気に食わなかったのか、彼女は僅かに頬をふくらませて、手にしていたカップをテーブルに置いた。

立ち上る湯気からは慣れ親しんだコーヒーの香りがちゃんとしていて、味も自分が淹れたものと大差ない。

不味くはないがかと言って美味しくもない、微妙なものを作り出す彼女にしては、普通に美味しいと思える分、中々の出来だと言ってもいい。

コーヒーを飲んで人心地ついて、ふうっと息を吐き出すと、彼女はそれを待っていたかのように口を開いた。