「持て……てる?」
彼の呟きに、部屋の前で振り返った彼女が「厳密には、持ててはいません」と笑った。
「でも、コツを掴んだって言ったでしょ。こういうの、憧れだったんです。一度はやってみたいと思っていました」
驚く彼を楽しそうに見やって、彼女は一足先に部屋に入る。
あとに続くと、室内は既にほっこりと温かかった。
「ひとまず、そこに座ってください。今、コーヒーを淹れますから」
“そこ”とテーブルを指差して、彼女は収納の扉を開けてジャケットをハンガーにかけてしまうと、閉めた扉に鞄を立てかけてキッチンスペースに向かう。
やかんでお湯を沸かしながら、カップにインスタントコーヒーの粉を入れている姿をぼんやりと眺め、彼は言われた通りテーブルの前に腰を下ろした。
コツを掴んだなどと言われても正直半信半疑だったのが、こうして手際よく動き回る姿を見ていると、もう信じるしかない。
確かに彼女は、ポルターガイストのコツを掴んだらしい。



