秋の月は日々戯れに



「おかえりな!…………どうしたんですか?今日はまた随分とお疲れな顔をしていますね。わたしが言うのもなんですが、幽霊みたいですよ」


ドアが開く音に玄関まで出迎えにきた彼女は、彼の顔を見るなり、満面だった笑顔を引っ込めて心配そうな顔で両手を差し出した。


「……何ですか?土産なんてものはありませんけど」


顔だけでなく声にも覇気のない彼は、差し出された両手を訝しげに見つめながら、フラフラと靴を脱ぐ。


「上着と、鞄を受け取る手ですよ。これも妻の仕事です」

「受け取るって……あなた掴めないでしょ」


いいからいいからと促され、疲れきった体がそれ以上の抵抗を拒否したため、彼は仕方なく差し出された青白い手に、脱いだジャケットと鞄を渡した。


「こういうの、凄く妻っぽいですよね」


ふふっとどこか嬉しそうに笑った彼女は、ごく自然に上着と鞄を持っている――ように見えた。

彼が予想したような、ジャケットと鞄だけがふわふわと不自然に宙に浮いている光景は、そこにはない。