秋の月は日々戯れに



「動きます」


大変機嫌よく笑って「はい、どうぞ」と言った彼女から視線を動かして、今度はテレビのリモコンに手を伸ばす。

別に観たい番組があったわけではないが、自由に動き回れない以上、その場で暇を潰すにはテレビが手っ取り早い。

一通りチャンネルを回して番組を確認し、クイズか刑事ドラマかで迷ったところで、刑事ドラマを選択する。


「……わたし、あのバスの運転手が怪しいと思います」

「そうですか?それより俺は、その人の元同僚で、つい最近会社を辞めたって男の方が怪しいと思いますけどね」

「そういうあからさまに怪しいのは、結局のところ怪しいだけで、犯人ではないというのが刑事ドラマの鉄則ですよ」

「そう言うあなたの推しは、たった今連続殺人犯の餌食になりましたけどね」

「そ、そんな!双子の弟とか、そっくりさんとかではなくですか!!」

「どう見たって本人でしょ」


そんな他愛ない会話をぽそぽそと交わしながら、何となくでつけたはずの刑事ドラマを、いつの間にか二人で真剣に観始める。

やがて首だけで振り返ることに疲れた彼女は、テレビが観やすい位置へと体を動かすが、しがみついた腕だけは断固として離さなかった。



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