秋の月は日々戯れに



「あ、あ、あの、あまり動き回らないでください。もしも血が吹き出して止まらなくなったりしたら……」


心配そうに今度は彼の周りをウロウロし始めた彼女を無視して、洗ってしまっておいたカップを再び取り出し、そこにプルタブを開けたコーヒーを注ぎ入れて電子レンジで軽く温める。

ほのかに湯気の立つカップを持って元の位置に戻ると、彼は目の前に立ち尽くす彼女の顔を見上げた。

彼女の視線は、すりむけた頬に注がれている。


「こう見えても小さい頃はそれなりにやんちゃだったので、この程度のすり傷はしょっちゅう作ってましたし、青あざもたんこぶも日常茶飯事です」


遠慮がちに動いた彼女の視線が自分とぶつかるのを待ってから、彼は続ける。


「だから、これくらいの怪我なんて慣れっこなんですよ」


ぶつかった彼女の瞳は、いつになく不安げに揺れていた。


「で、でも、今はその頃よりもだいぶお年を召していますし……。そうなってくると、傷口を治す細胞何かにも衰えが……。そ、それが原因であなたが」

「俺はおじいちゃんか!!」